2023年3月に当学科を卒業した清水健太さん(現在コベルコ建機株式会社所属)の卒業研究が日本機械学会論文になりました。日本機械学会論文集 Vol.91, No.944に掲載された「リーバスドラムにおけるワイヤロープ食い込みによる乱巻き」です。
クレーン等のワイヤロープをドラムに巻き取る機械ではドラムに巻き取ったワイヤロープはきれいに整列している必要があり、巻きが乱れる「乱巻き」と呼ばれるトラブルがあります。乱巻きにはいろんな原因がある中、整列巻きになっているロープの上にロープを巻き取ることでその整列巻きが乱れる「食い込み」現象も乱巻きの原因のひとつです。清水健太さんは、卒業研究で食い込みによる乱巻について実験を行い、2023年3月に鹿児島大学で行われた日本機械学会九州支部総会講演会でその成果を学会発表しています。清水さんが卒業後、査読対応は教員が行ったため第一著者は指導教員、清水健太さんは第二著者となっていますが、中身は学会発表までの内容となっており、卒業研究そのものです。
学部生の卒業研究や大学院修士課程の研究では査読付き論文になる事例は少なく、査読を経て論文として認められることが必要となるのは大学院博士課程の研究です。清水健太さんの卒業研究は大学院博士課程の研究と同レベルということになります。
なお、航空宇宙工学科において「ワイヤロープの乱巻き」を研究対象としたのは不思議に思われる方もおられるかもしれません。その理由は、航空宇宙工学の特徴として、原理にさかのぼり原因究明を行うことを強みとしている点があるからです。
例えば、新幹線の開発時、高速走行における蛇行問題についてレールの歪みが原因で新幹線のような高速走行は無理と当時の鉄道技術者は考えていました。この問題を解決したのは海軍でゼロ戦の開発に参画した松平技師で、鉄道の蛇行問題とゼロ戦の振動問題とは同じ理論で説明できると見抜いたからです。松平技師は、車両実験を行うことで自らの理論で蛇行問題が解決可能であることを示し、新幹線開発に貢献しました(NHKプロジェクトXに基づく)。ワイヤロープの食い込みによる乱巻きという現象自体は、一定の範囲で認知されていたにも関わらずその原因を明らかにした研究事例が無かったことから、卒業研究として取り組んだ結果、その原因が明らかになったものです。