Topics2022/08/09

卒研指導「ググっても出てきません」

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本学の試験でも、教科書やノート持込可の場合があります。
そのうち、スマホ持込可とその場で検索可能という時代が来るかも。

卒業研究では、学生と教員がマンツーマンでディスカッションを行います。
当然、学生が分からない言葉が話題になる場合がありますが、
そんな時「ググってみれば?」とアドバイスする教員がいます。

知らないこと、忘れてしまったことをその場で悩んでも仕方がないし、
教科書持込可の試験と同じように、暗記することが重要ではないからです。

ただし、この日は違っていました。
「出てきた?」と教員、「出てきません」と学生。
「まあ、そんなに簡単には出てこんだろうな・・・」と言ったうえで、
教員が差し出したのは、山名正夫が書いた飛行機設計論という古い専門書。

学生が検索したのは「燃料重量比」で、飛行機設計論の最初の方に出てきます。

燃料重量比でググると出てくるのは「推力重量比」で、これは主に戦闘機の機動性を議論する場合に使われるパラメータです。航空機設計に関するパラメータですから、まったくの検討的外れではないのですが・・

しかし、燃料重量比は推力重量比よりも航空機設計では重要なパラメータです。

旧GD社で、F-16の主任設計者を務めたヒレイカーは、F-16について次のように語っています。
『構想段階で、翼面荷重、推力重量比、燃料重量比の3つのパラメータの関係を分析していた。我々は、低翼面荷重で高推力重量比を追及していたが、低翼面荷重は重量/抗力の増加、高推力重量比は大きな燃料消費率になる。一般的に高推力重量比の機体は航続距離が短くなってしまう。それで、燃料重量比に注目していた。この分析は主にジョンボイドの担当だった。』
(出典:Code One April 1991, Code One July 1991)
(GD:General Dynamics社で、現在のロッキードフォートワース)

米空軍でF-16計画を主導したジョンボイドは次のように言ったそうです。
燃料重量ではなく、燃料重量が機体全体の重量に占める割合(燃料重量比)が重要だ。
LWFの燃料重量比は30%を下回ってはいけない、F-15の25%を上回るようにする必要がある。
この新型機は6500ポンドの燃料を搭載し、燃料重量比は31.5%とする。
(出典:Robert Coram, BOYD LWFとは後のF-16のこと)

ヒレイカーやボイドが燃料重量比を重要視しただけではなく、
戦闘機では推力重量比が話題になることはあっても民間旅客機ではそうでもない。
一方、燃料重量比は民間旅客機にとっても重要なパラメータですから、
どっちが重要かとなると、やはり、燃料重量比に軍配が上がります。

因みにこの学生の卒研テーマは、民間旅客機の航続性能推定です。

このように大学で教えている専門知識になると、検索しても簡単に出てこない場合があるのです。
「検索して、簡単に出てくるようなことを教えるだけなら、大学の教員なんて不要」とこの教員。

ネット検索では見つからないホンモノの航空宇宙工学を学びたい人はぜひ本学に。